COLUMN / ESSAY

「童夢は強いの?弱いの?」 ー批判への批判ー

私、幼少のみぎり、ラジコン飛行機に熱中していた時代には、夢中になって製作に没頭するものの、いざ完成して飛ばす段になると、下手だしすぐ落とすしたちまち飽きるし、あげくに、壊すのが嫌で飛ばしていない機体もあったくらいですから、もとより本末転倒です。
その次にハマっていたオーディオでも、機器を製作している間は夢中なんですが、完成後に聴くのは「周波数レコード」という30Hzから10000Hzまでの正弦波だけが収録されたレコードばかりで、ほとんどスピーカーから音楽が聞こえてくることは無く、これも本末転倒な趣味でした。
現在の趣味である釣りにおいても、道具と船には凝りますが、実際の釣行時にはほとんど操船していますから、まるで遊漁船の船長みたいなものです。
だから、そんな私に、レースの成績をとやかく言われても、ラジコンの操縦が下手だとか音楽の趣味が悪いとか責められているようなもので、感覚的にはほぼ他人事です。

このように、マインドとしてはほぼ造りっぱなしのようなものですが、そこはそれ、レーシングカーは勝ってなんぼの存在であることも理解はしていますし、特にSGTは戦歴が評価に直結していますから、営業戦略上も勝つことは必然となっています。
だから、コンストラクターという立場からも、最も勝てる体制を求めることは当然ですし、他のチームに依頼するより童夢が走らせた方が速い場合、自チームでの参戦はやむを得ません。
日本の場合、ほとんどの自動車レースはワンメイクによるドライバーの育成が目的となっていますから、そこで行われていることは出来合いのマシンをいじくるセッティングだけで、その先にある設計段階からの改良や空力開発による基本性能の向上は別世界の話になっています。

S101が完成した時にドライバーとして脇坂寿一と契約しました。マニクールでのシェイクダウンから寿一は童夢のエンジニアに「ウイングを1ノッチ上げろ」とか「車高を5mm下げろ」とか指示しますが、エンジニアにしたら、シェイクダウンのプログラムは決まっていますし、悪い方向に振って見たり、風洞試験との整合性の確認など、コンストラクターとしての決められた作業がありますから、困って日本にいる私に苦情を言ってきました。私は寿一の説得を試みたのですが、寿一は、マシンの開発は自分の役目だと思い込んでいるし、私の為にも最高に仕上げたいと譲りませんから諦めて契約を解除しました。
寿一は、心の底からマシンを早くしたいと熱心に取り組んでくれているだけなので心が痛みましたが、マシンの完成が遅れていたので、そんなことで揉めている時間はありませんでした。つまり、日本のレースではマシン作りはドライバーの役目とされており、開発力のあるドライバーという言葉をよく聞きますが、それらは全て、コンストラクターが調整を終えた後に引き渡した後の話であり、基礎的な工学的知識のないドライバーには異なる分野の仕事です。

また、ルマンの予選にしか興味が無いことも責められますが、総合力としてルマンでの勝利を考えるとしたら、AUDIのように、前提として複数台の参戦がマストとなるし、メンテナンスの時間短縮のためにピットに穴を掘ってレース後に修復して帰ったり、サーキット内にホテルを建設したり、大枚の契約金でトップドライバーを獲得したり、若手ドライバーに経験を積ませるために、あらかじめポルシェのGTチームでルマンに参戦させたり、数百本作ったドライブシャフトを検査して優良な数十本だけ残したり、それはそれは大変な努力もしているしお金も使っている訳で、それだけの資金力が無いのならルマンに出るな!と言われたら、私は、一生、ルマンに近づくことさえも出来なかったでしょう。
まあ、勝ちたくない訳ではありませんが、勝てないから出ないという判断よりは、私にとっては、出来る範囲でルマンを楽しむと言う選択は間違っていたとは思っていません。

まあ、そういう訳で、コンストラクターの童夢にとってのレース活動というものは、ほぼ刺身のつまのようなものですから、レース結果にそれほどの思い入れがあるわけではありませんが、では、童夢の戦歴って、そんなにひどいものなんでしょうかね?
まあ、連戦連勝していれば誰からも何にも言われないんだろうとは思いますが、私は、童夢の置かれた環境から鑑みれば、こんなところが精いっぱいじゃないかと自己分析しています。

この表はルマンにおける童夢の近年の予選での結果を表示しています。2006年からは、ヨーロッパでのエコカー事情を背景にヂーゼルエンジンを搭載したAUDIやPeugeotが登場し、特別に優遇されたこの2車以外に優勝の権利は無いという実情はご存じだと思いますが、黄色はそのヂーゼルエンジン車を示しています。ブルーはワークス・チームのガソリンエンジン車、そしてオレンジが童夢です。
別に言い訳では無く、ヂーゼルエンジン車とガソリンエンジン車の格差はあまりに露骨で、まるで、日本のSGTCのGT500とGT300のような速度差がありますから、もとより勝負にも何もなりません。
だから、この表の2006~2008年から黄色を省いて童夢のポジションを見てみてください、それが最近の童夢の予選での成績です。
東洋からやってきた貧乏なプライベート・チームの成績としてはそこそこじゃないかと思うのは手前味噌に過ぎるんですかね?
私にしてみれば、「こんな予算でこんなポジションに食い込んでいる日本のコンストラクターが居るんだ!こいつらにわが社のエンジンを積ませて、ちょっと予算を与えたら、ルマンで優勝するんじゃないか?」と考える自動車メーカーが出現しない方が不思議でたまりません。

さあ、いかがでしょう?ちょっと見方が変わりましたか? また言い訳ばかりと思いましたか?まあ、それぞれの立場からのいろいろな見方があって当然ですが、日本で唯一の本格的なレーシングカー・コンストラクターである童夢という存在は、我が国においては、良きにつけ悪しきにつけ浮きまくっています。
童夢は、日本のレーシングカーが外国と戦う場合、必要不可欠な技術やインフラをからくも保持している唯一の企業です。しかし日本のレース界は、まるで、このパンドラの箱を開けてしまえば、せっかく、特定の輸入代理店の輸入するレーシングカーとドライバーの育成だけでごまかし続けてきた、戦いを避けた安穏たるぬるま湯の世界に悪魔が降臨するのを恐れるがこどく、誰もこの箱を開けようとはしません。
だから、現実問題としては、自動車メーカーがF1やルマンに挑戦する場合は、金だけ出して外人に頼むしかなく、結局、日本のお金で外国の技術はますます向上し産業もますます発展し、反面、残された日本は、ますます格差が開き置いてけぼりとなっていきます。
そんな環境で、外国に金を垂れ流している日本の自動車メーカーは応援できて、孤軍奮闘、日本の技術を死守している我々の弱体ぶりを批判する人たちの心理は私には図りかねますが、まあ、童夢もそんな大義名分を掲げてレーシングカーを造っている訳ではありませんし、本質的には、近所の八百屋のオッチャンが、ざるの金を持ち出して製作したラジコン機で大会に出ているようなもので、それを見ている一般の観客が、「もっと上手く飛ばせ!」とか「優勝できないなら参加するな!」とかヤジを飛ばしているようなものです。しかしこのオッチャン、家に帰れば、家族から金をくすねた事を非難されて肩身の狭い思いをしながらギリギリのところで参加しているのかもしれないのだから、拍手しろとまでは言いませんが、ラジコンファンなら、微笑ましく見守ってあげればいいんじゃないでしょうか? という話でした。よろしく。

林みのる

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