COLUMN / ESSAY

「X JAPANの夜」 ―ESSAY―

近づくにつれ、東京ドームを中心に、なんだか異常な雰囲気が周囲を取り巻いていて、溢れんばかりの人々が東京ドームに吸い込まれていっているという状況だった。最初は、そのすべての人たちがX JAPANのコンサートに来ているとは思っていなかったので、ドームの近くのいろいろなビルで催し物があり、それらの観客でごった返しているんだろうと思っていたくらいだ。
当初は来る予定では無かったが、当日は会場に「ROCKST☆R DOME NSX」を展示してところ、スポンサーのステッカーを貼り忘れているところがあるという事で大騒ぎになったものの、しかし連休中であらゆる手配が整わず、結局、私がチームのスペアを持って会場に駆け付けることになった。
駆け付けたのはいいが、あまりの人だかりとカメラの砲列の中で車両にステッカーを貼付する勇気はなく、さすがに躊躇していると、YOSHIKIサイドのスタッフが気の毒に思ったのか「これじゃ無理そうだから後にしましょう」と、あっさりと断念してVIPルームに通された。大山鳴動してネズミも出ずというところだ。
8~10人用のガラス張りの部屋の外に観覧用のシートが設置されたバルコニーのある豪華な部屋だが、他の部屋は30人くらいの人で溢れているのに、この部屋だけは私とレース・クィーンと4人だけと言うガラガラ状態で、時々、モニターに映ると、私一人が両脇にレース・クィーンを侍らしているような異様な光景が映し出されていて、さすがにビビった私は1人だけ部屋の端に移動した。
最近は音楽もろくに聞かなくなった私が公演内容についてとやかく言っても仕方が無いし、土台、カート初心者がF1ドライバーのテクニックについて評論しているようなもので、それがどうしたというような話だが、音響がイマイチでまるで何をしゃべっているか解らないにもかかわらず、まるで観客には全てが理解できているような一体感とリアクションは、調和というよりは宗教的な狂気さえも感じてしまうほどの盛り上がりを見せていた。 お前が難聴で聞こえなかったんだろう?と思われるかもしれないが、同席していたレース・クィーン達も解らないと言っていたから私だけの問題ではない。
そのうち、スティックライトの揺れが体で感じるようになってきた。VIPルームのバルコニーの上にも観客席があり満席状態だ。大阪ドームではXジャンプが危険だからと公演を断られたと聞いたが、スティックライトを振るだけで揺れを感じるようならば、ジャンプなんかされたら崩壊するのではないかと本気で怖くなってきた。
会場のいたるところに「ジャンプ禁止」と書いてあるが、このノリでジャンプしない訳はないし、ジャンプする曲(X)は最後の方だと言うから、そのXが始まる前に帰ろうと思っていたら、いつの間にかその曲になっていて、会場の全員がきっちりとジャンプしていたが、何となく、全員が気を遣って軟着陸しているようで、ズシンという圧力は感じるが、大きな振動とか恐怖を感じるほどには至らなかった。
その後、混まないうちに会場を後にしたが、日本の3大自動車メーカーが力を注ぎ、大枚の予算を注入して、何十ものチームとレーシングカーがバトルを演じるGTレースの観客動員数が4万ちょっとという現実を知る者として、この数人のグループの音楽を聴くために集まっている5万5000人×2日という数字もさることながら、その熱狂ぶりは異常と言えたし、手を変え品を変えてギミックのバトルを演出しているGTレースの現実がとても情けなく見えてくる。
数人のグループに過ぎないX JAPANの集客力と信仰にも近いファンの熱狂ぶりにショックを受けながら帰途についた。

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