COLUMN / ESSAY

「無限に起こった数奇な出来事」 ―JAF問題―

それはかなり以前の話となるが、ある国会議員によって、公益法人である日本自動車連盟(JAF)の不正蓄財などが国会で追及され解体の危機に瀕していた。常日頃、JAFを不必要悪と称しその存在を問題視している私には興味ある話題だったが、ある日、この件を国会で追及していた議員から、さるレース界の重鎮に恐るべき情報が伝えられた。
それは、JAFが追及を逃れるための内部整理の一環としてASN(各国に置かれた自動車レースを司るFIAの傘下機関)を放棄して訳のわからない団体に丸投げすることを画策しているというとんでも無い話だった。
それは一大事とレース界の主要メンバー数十名をかき集めて反対運動を開始したが、直後、その旗振り役であったレース界の重鎮が(私は幸いにもパシリだった)、警察から天下りしたJAFのトップに呼び出され「あなたは警察を敵に回すつもりですか?」とか、それ以上、ちょっと考えられないような恫喝を受け、ビビッたレース界の重鎮は「みのる、俺は警察を敵に回せないから辞める」と、すぐにギブアップしてしまったから、この反対運動は2回のミーティングで頓挫してしまった。
不思議なことに、数百億円にものぼるような巨額の不正蓄財などの大事件も、それ以来、報道もされなくなり追及していた議員も下野し急速に終結してしまったし、その後、JAFが何事もなく存在し続けていることはご存知の通りだ。まるで照明のスイッチを切ったような急速な沈静化はどう考えても不自然だったが、事の成り行きを知っていた私を始めとするメンバーや旗振り役の重鎮は、その、あまりに不自然な沈静化がとても怖い出来事に映っていたし、かなりの不安感を抱いたものだ。

まあ、関係あるのか無いのか知らないものの、そんな出来事があってしばらくの後、無限の本田博俊社長に晴天の霹靂のような不幸が舞い込んできた。
博ちゃんは、どこからどう見ても単純な詐欺の被害者にしか過ぎないのに、脱税の容疑で逮捕されて長期にわたって勾留されるは、実刑の判決が出たり、一転無罪になったり、控訴されたり、民事では無罪が確定したりと、法解釈上もはなはだあやふやな状況にもかかわらず、何が何でも罪を着せようとする無理やりな力が働いているとしか思えない不可解な状況が続いた上で懲役2年の実刑を食らっている。
私はHONDAから全面否認を続けると実刑は免れないが、一部を認めれば執行猶予を取り付けられると聞いていたので、投獄されるなんて有り得ないと思っていた私は、何回か「二人とも老い先短いのだから、こうなったら適当に認めて執行猶予を取り付けて、余生は二人で最高のスポーツカーを作るなりして楽しもうよ」と妥協することを勧めたが、博ちゃんは「お前にこの悔しさが解るものか!」と頑なに冤罪を晴らすことに一生を賭けると譲らないものだから私は傍観しているしかなかった。
事情があって、今なら、この博ちゃんの気持ちは痛いほど解るが・・・・。
出所した博ちゃんは、現在も、冤罪を晴らすために戦い続けているが、その以前の裁判中から、多くを語らず仲間に何も求めず、どちらかと言えば殻に閉じこもったように孤独な戦いに全てを懸けて司法に挑み続けている。友達に迷惑をかけないというような配慮よりも、もっと頑なな壁を感じるほど排他的な雰囲気がずっと気になっていたが、穿った見方をすれば、何か得体のしれない魔物から私たちを遠ざけようとしてくれているような気もするが、いったい、その魔物って何なんだろう?

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