COLUMN / ESSAY

「海原に鳴りやまぬチームからの電話」 -JAF批判-

先週、私は友ヶ島水道に居た。右に淡路島の洲本、左に和歌山を見ながら、その間に点在する友ヶ島や沖ノ島の周囲は鯛釣りのメッカだ。西宮ヨットハーバーから2時間弱、曇りがちだが穏やかな天候は絶好の釣り日和で、私は、始めての鯛釣りに熱中していた。
いつもジギング中心なので、なれない手つきで餌をつけている最中、オートポリスの中村から電話が入った。
「#8が#23に追突されて部品が外れそうになり、#8にオレンジボールが出されたのですが、追突した#23にはお咎めは無く、またその後、#23も部品が外れそうになっているのに関わらずノーペナルティです。両件とも競技長に善処を求めていますが動きそうもありません。」
現場の悔しさや無念さは充分に理解できるが、私にとっては問題の観点が違う。「放っておけ、好きなようにさせろ」と電話を切った。
それよりも、中村の長い話を聞いているうちに、餌が弱ってきたので付け直さなくてはならない。一番竿を目指す私は、あわてて仕掛けを落とした。

今週はホームである若狭湾で、そろそろお出ましのぶりを狙っての釣行だ。今日は波も風も無く気温も温暖で最高のコンディションだ。こういう日は、魚の宝庫、天然の生簀と呼ばれている冠島まで足を伸ばそう。天気が良いせいか沢山の釣り船が来ている。いかにも爆釣の雰囲気バリバリで、みんな、船足が止まるのを待ちかねてルアーを投げ込んでいた。
そんな浮き浮きとした至福の時、もてぎの中村から電話が入った。
「FNの車検で、あろうことか、車検委員が他チームに車検計測データを漏洩しました。ワンメイクレースではセッティングだけが勝負どころであり、こんな事をされては技術的努力は全て無駄になります」
現場の悔しさや無念さは充分に理解できるが、私にとっては問題の観点が違う。「放っておけ、好きなようにさせろ」と電話を切った。

魚の宝庫、天然の生簀のはずが、全く当たりが無い。無駄にルアーの往復だけが続く最中、今度は、F3チームの田中監督から電話がかかってきた。
「ライバル車が明らかにレギュレーション違反を犯している。社長の無抵抗主義は理解しているが、これは観念的な問題ではなく明らかに物理的に寸法を違反しているし、性能的にも非常に効果的な部分なので、これが許されるのなら、まともな開発行為は意味を成さなくなる」との強い提訴の要求である。
現場の悔しさや無念さは充分に理解できるが、私にとっては問題の観点が違う。「放っておけ、好きなようにさせろ」と電話を切った。

どの部分の観点が異なるのかと言えば、毎回、毎回、全く同じような違反やアクシデントでも、現場の判断は全く異なり、ある時はノーペナルティ、ある時はオレンジボールと簡単に天国と地獄が入れ替わる様は、長年に亘って観察していると、特定の車種に優位に働いている様子も見えてくる。
過去においては、スポンサーの手前もあるし、ワークスチームだからメーカーの顔色も窺わなくてはならないから、抗議をしたりJAFに提訴したりしていたが、全く取り合ってもらえないし、挙句、F3ドライバーが無免許で捕まってレースに出られなくなったのはチームの管理に責任があると言いがかりを付けられて始末書を取られることになった。
このドライバーは紛失したことにしてスペアを持っていたから分からなかったのだが、警察に問い合わせたところ、その免許が有効かどうかはプライバシーに属する事なので答えられない、つまり、一般的に、スペアの免許書の有効か無効かはチームには知り得ない訳で、私は、この難癖に強く抗議したところ、指示に従わないのならしかるべき処分を下すときたものだ。
本田との契約もあるので、出場停止処分とか言い出されたら困るので泣き寝入りしたが、それからもいくつかのトラブルが続いた後、私は、JAF様のご指示には絶対に逆らわないと決めて、チームに伝えた。
田中監督のいう「社長の無抵抗主義」がこれだが、私は、無抵抗主義ではなく、最大限の抵抗だと思っている。
私はまたルアーを投げ込んだ。

基本的に真剣勝負であるはずの自動車レースを茶番劇にしてしまうような大変に稚拙で幼稚なレース運営の根本的な問題を棚上げにしたまま、個々の瑣末な出来事の瑕疵を云々すること自体がばかげている。ワールドカップの審判を小学生に任せておいて、お前らのジャッジはおかしいと不平たらたら言っているようで見苦しい。私たち自身がまともな環境で自動車レースをやっているつもりなら、まず、正確なジャッジメントが行われる環境を構築することから始める必要があるだろうし、改革する必要性を感じていないのなら、唯々諾々と従うしかない。それだけのことだ。
私はこの十年、JAFは日本のモータースポーツの発展にとって「不必要悪」だと言い続けてきたが、レース界は関心を示さず現状維持を支持してきた。それが、日本のレース界が望んでいる姿なんだから。

真っ青な秋空と穏やかな水面に佇む冠島は美しいが、魚は釣れん!!午前中にさわらが一本揚がっただけで、だれのロッドにも当たりが来ない。日も暮れてきたので帰途に着き、途中、無線で拾った情報を頼りにあおり烏賊を釣りに行ったら、これが爆釣で、いままで見たことも無いような大きなあおりをゲットした。
家内からは、ぶりはたれ焼きがいい?沖すきにする?とうるさくメールが入ってくるし、さわらで帰る訳には行かないとあせっていたが、これでイカ好きの家内にとやかく言われることは無いだろう。刺身と焼酎がうまかった。

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