COLUMN / ESSAY

「失速と神業の違いが解りますか?」 ―レース界評論―

今回の鈴鹿1000Kmには、レースを観るのが初めての姪っ子が来ていたので、1stコーナーあたりに連れて行って、何年かぶりにコーナーで予選を見たが、スーパーラップで最後に走った道上が4位になったとき、拍手でも沸きあがるのかと思ったら、場内放送は「道上失速です。どうしたんでしょう?」と来たものだ。パドックに帰っても、かなりレースに詳しいと思われる人たちからさえも、「残念でしたね」と言われる。後の話になるが、翌日のトーチューでも、「道上失速4番手」と書かれていた。
これって何なんだ?SGTC独特の、無理矢理にバトルを演出するための性能調整システムの存在は、表面的には無い事になっているのか? 観客は、何も知らないで観戦しているのか? 百分の一秒単位のバトルの中、指示通りの4位に収めた道上の神業は、「失速」という不名誉な言葉でしか語られないのか?
レース中のラップタイムによる性能調整システムはもっと知られていない。出場車を、BS+NSXやDL+SCなど、使用タイヤと車種によってグループ分けし、その各グループ内の各車のレース中の上位10ラップを抽出し、そのラップタイムの平均値(個別)を算出し、一番速い車をそのグループの代表車とし、その各グループの代表車の平均値(個別)の平均値(グループ)を算出し、各代表車の平均値(個別)が、その平均値(グループ)より0.8%以上速いグループは、次回より+25Kgとなるし、0.8%以上遅い車は、△25Kgとなる。また、代表車の上位10ラップのラップタイムのトップとボトムの差が2%以上有ると、これらの性能調整システムの対象から外されるし、次回のレースで、代表車の平均値(個別)が、全グループの平均値よりも、0.5%以内速いだけならば、この25Kgは降ろせることになる。
これ以外に、通称、「お助け」と呼ばれている救済処置があり、①ランキングが6位以下であり、②予選上位3台の平均値より1秒以上遅く、③レース中のベストラップ上位3台より0.5秒以上遅い車は、2リスを限度とし、1リストリクター大きくすることが許される。
また、この3条件のうち、二つが満たされているうちは継続し、一つだけになったら戻さなければならなくなる。
当然、予選3位までは10Kg積まなくてはならないし、ベストラップやレース結果にもウェイトのご褒美が付いてくる。
私は、本質的には、これらのハンデキャップシステムには反対だが、どうしても導入したいのなら、観客にもファンにも、その内容を周知徹底することが当然で、「神業」と「失速」の見分けの付かない状況と言うのは、どう考えてもおかしいだろう。
これらの複雑極まりないハンデキャップシステムに対応して、何人ものスタッフがパソコンと首っ引きで最も効率の良い走り方を計算し、ドライバーに指示する。
現在のドライバーは、まるでラリーのチェックポイントのように各ラップをまとめながら走っているのであって、ひたすら速さを追求しているわけではない。
それがこのGTレースの正しい戦い方だが、これが全て、壮絶なバトルを演出するための仕掛けであり、観客には見せたくない舞台裏だというのなら、つまり、このレースは基本的にエンターテインメントであり、演技が素人の参加者たちがわざとらしい立ち回りを演じないために真剣勝負を装っているだけの話だ。情けないことに、真剣勝負のつもりで臨んでいるレース業界のプロたちも多く、本気と冗談のカクテルの中で、どんな顔をしながらサーキットでの時間を過ごせばいいのかと戸惑ってしまう。
競馬でもハンディ戦はあるが、内容が明確だから誰も文句は言わない。これが、ファンの知らない間に、鞍の下に重りが積まれていたり蹄鉄が重かったりしたら、払い戻し窓口で暴動が起きるだろう。
レース界の皆様は、みんな納得してやっているようだからどうでもいいが、ファンの方々は、これらの取り決めを熟知してレースを観察しないと、結果だけ追いかけていては、何が行なわれているのかさっぱり解らないはずだ。
どう告知しているのか知らないが、少なくとも当日、サーキットに来ていたレース通のゲストの人たちに聞いても、誰一人、この0.8%ルールを知っている人は居なかった。
こう言うと、僻みのようにしか聞こえない人が多いようだが、こんなチンケなハンディシステムがなければ、速い車を開発できるコンストラクターの存在価値も向上するだろうし、自動車レース産業も発展するだろう。その中で優秀な人材が育てば、F1チームの中にも、もっと日本人の顔が見られるはずだ。何の努力も実ることのない、音とキャンギャルだけのページェント(仮装行列)、それが現実だ。

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