COLUMN / ESSAY

「2003~5年 NSX-GTまとめ」 ―NSXレース秘話―

2003〜5年にかけてのNSX-GT関連の自慢と愚痴についてのコラムを簡略化してまとめています。

11 Jul. 2003 「NSXが負け続ける本当のわけ」より抜粋

かわいそうなNSXが世間の同情を集めつつ、今日もまたスープラやGT-Rの後塵を浴びながらサーキットを駆ける。
そもそも、まともに戦えばスープラやGT-Rに負けるはずのないNSXが、スープラに対して70Kg、GT-Rに至っては90Kgものハンディウェイトを積まされ、リストリクターも5.2リッターのスープラ、3リッターターボのGT-Rに対して、1穴の場合、42.3φ対43φでたった0.7mmという公差ほどの僅かな差を押し付けられたりしているのは何の為なんだ?
そもそもゴルフのハンディでもそうだが、基より勝負にならない対戦相手でも擬似的に戦っているような状況をつくって楽しむ為の方策であって、プロのトーナメントにネットもグロスもペリエも無い。ハンディというものは、勝てないまでも大負けしないという程度の設定をよしとするものであり、ハンディを貰っている方が毎ホール勝ち続けて大はしゃぎの図なんて滑稽でしかない。
1000歩譲って、JGTCを華やかな状況にしておく為の方策だとしても、ハンディは、あくまでも三つ巴の戦いを演出するためであり、勝てないマシンを無理矢理に勝たせるためではないはずだ。
もとより、科学的に適正なハンディを決めるのは難しいから話し合いというあやふやな方法で決めているのだから、実際に走らせてみて、また、レース結果から判断して、ハンディを背負わせたNSXが負け続けていたら直ちに修正すべきであり、ライバルにハンディを背負ってもらってまで勝たせてもらっているマシンが勝ち続けているのを放置しておくのは原理原則的におかしい。
また、開発努力が足りないというのもおかしい。数千円の鉛の塊を積まれたハンディを克服するために何千万円の予算を投じて開発に努力するのもおかしい話だから、とにかく、ハンディのありようを一から勉強していただきたいし、トヨタやニッサンの皆さんには、早く、ノーハンディでも勝てるように技術的努力をしてくださいと言いたい。

林 みのる

05 Aug. 2003 「NSXが優勝した本当のわけ」 より抜粋

ここのところ世間では、負け続けるNSXに対して開発の失敗だの努力が足りないだのと言われ続けてきたが、今回、タナボタといえども優勝したらしたで、やっと開発が追い付いてきたとかハンディは適正だったとか、事実とかけ離れた空疎な話題が飛び交っている。
先回のコラムで書いた「NSXが負け続ける本当のわけ」の中で私が言っているのは、ハンディは三つ巴のバトルを演出する為の性能調整システムなんだから、格差を縮めることが目的であり、勝てないマシンを勝たせるためではないということであり、厳しいハンディを背負わされているNSXに「開発が遅れている」などお門違いもはなはだしい言いがかりだ。

例えば、今年から導入されたフラットボトム化という規定を正しく決めようとすると、代表的な3車種の風洞実験を行ない対等なダウンフォースの減少を求めなくてはならないから、風試用のモデルの製作から実験まで億単位の費用を要する作業となる。だから、アップスイープの位置や高さの決定も「話し合い」で決められるから、どの車種にどれほどメリットがあってどの車種がどれほど損をするかは想像の世界、出来てからのお楽しみというところだ。
こんな科学的な競技の割には、根拠の希薄な「話し合い」で決められていくレギュレーションがもし間違っていたらどうすればいいかというと、ただちに修正すれば良いだけの話だ。それを、一度決めたことは守り通さねばならないと言うなら、それはちょっと待ってほしいと言いたいし、それならば、こんなレギュレーションの設定方法は受け入れられない。
また、JGTCのレギュレーションの中に、前面投影面積が小さいNSXが有利だから重りを積むという項目がある。貴方はこの規定をおかしいと思わないか?
デザイナーがレーシングカーを設計する場合、ほとんどのケースにおいて規定の寸法いっぱいに作るのは最大限のダウンフォースを得る為であり、この前面投影面積ハンディの理屈が正しいのであれば、童夢S101も小さく造ればよかったという事になるが、当然のように目いっぱいの大きさに作られている。つまり、車体が大きくなると空気抵抗は増えるが、得られるダウンフォースはそれ以上に大きくなって、相対的には得な方向となるから車体は既定の範囲内で最大幅に作るのだ。
また、今年から変更になった項目として、フロントホイールアーチの造形が自由となり、トランスアクスル化が自由になり、フラットボトムになった。これによりFR車は、より大きなサイズのフロントタイヤの採用が可能となり、もともとフロント荷重の大きいFR車はだんぜん優位となった。一方、MR車のNSXのフロント荷重は46%くらいだから、FR車のサイズよりも周長で5%くらい小さなタイヤが実用上の限界となっている。つまり、全てがFR車を優位にしMR車を不利にするためのレギュレーションだ。
強きをくじき弱きを助けているつもりかも知れないが、ひずみは出てくるだろう。
第5戦の富士で少しNSXが回復の兆しを見せたが、これはホンダが、ちょっと本気になってお金をかけて改良したからだが、しかし、技術競争としては大変に面白い出来事である反面、これをメーカー間の熾烈な開発競争だなんてはやし立てるのは愚の骨頂である。レーシングカーを速くするには、とんでもない開発費を要するが、速い方を遅くするならタダで出来るという現実があるのだから、こんなプロレスのような構造のレースで、こんな無駄なお金をメーカーに使わせる愚かさに一刻も早く気付くべきだと忠告しておこう。

林 みのる

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