COLUMN / ESSAY

「FNの未来への提言」 ―自動車レース論―

レイナードの倒産によって、フォーミュラ・ニッポン(FN)の先行きが心配されています。私としては、日本のビッグレースの動向はとても心配ですが、現在このレースに携わっている関係各位の皆様とは基本的な部分で考え方が異なり、絶えず私の考えている方向とは違う道を選んでゆくので、どちらがいいとか悪いとかは抜きにしても、だんだん自分の頭の中にある自動車レースの世界とはかけ離れたものになってゆき、今となっては何んだか浜松のオートレースを見ているような気持ちになることもあるくらいです。
しかしこういう節目の時は、やはり、この機会に少しでも良い方向に向かってくれないものかと期待を込めてひとこと言いたくなるのも人情で、レースを愛する者として、これからのFNについてちょっと意見を述べてみたいと思います。
巷ではいろいろな情報が飛び交っているようですが、まず、最初に決めておかなくてはならないのは、FNの未来に何を創造したいのかという明確なイメージだと思います。
現在、わが国には入門用フォーミュラとしてのSRS-FやFJ、F3への登竜門としてのFDやF・TOYOTA、そしてFNへのステップボードとしてのF3があります。
では、それらの階段を昇ってきた若者たちにとってFNは何のために存在するのでしょうか?それが頂点であるならば、その見返りは何なんでしょうか?通過点であると言うならば、どこに進めるようになっているのでしょう? というような一般論に「そうだ、そうだ!」と少しでも納得された方は基本的に私とは考え方が異なります。実はこの問題を考えるにあたっては、今まで述べたような観点だけでは非常に片手落ちであり、この際、もっともっと根っこの部分についても論議を尽くしておく必要がありそうです。

私は以前から自動車レースは「自動車の競争」だと言いつづけて来ました。言い尽くしてきたのでここでは詳しくは述べませんが、日本の現状は「自動車による競技」が通念となっています。ここはドライバーの腕比べだけを偏重した特殊な世界ですから、ここでは自動車レース産業や技術は必要とされていない、と言うより邪魔者扱いです。
だから、この形では自動車レース産業などからの資金の流入は望めませんから、本来は、興行としての価値をいかに高めるかだけが成功の鍵となるはずです。
しかし私は、魅力に乏しいワンメイク・レースのようなものを舞台に、単にドライバーが腕を競い合うと言うことだけをネタにした興行がどれほどの価値や魅力を持っているのか非常に疑問ですし、例えそこそこ客が入ったとしても、それだけで経済的にトップカテゴリーを維持するだけの力にはなり得ないと思っています。
反対に「自動車の競争」の場合は、構造的に自動車メーカーやタイヤやオイルメーカーなどの自動車レース産業の闘いとなる訳ですから、チーム側の運営予算も膨張するかも知れませんが、動くお金の総量も大きくなって、結局はレース界の受益部分は増大するものと考えます。
私はこれが本来の自動車レースの姿であり、そうであるがゆえに他のスポーツと比較しても大きな予算が必要とされる所以だと考えます。
基本的に、ラケットやクラブだけで競技できる他の一般的なスポーツと同じ観点で自動車レースを論じようとすること自体に大きな間違いがあることに一刻も早く気づくべきです。
現状、レース関係者は口をそろえてワンメイクは好ましくないと言いながらも、結局はワンメイクにならざるを得ないようなレギュレーションやシャシーの選択方法しか話としては出てきませんし、興行としてのFNが行き詰まりつつある状況下、関係者の気持ちがあまりに萎縮してしまって、とにかくお金をかけたくないというマイナスのスパイラルに巻き込まれているようで、低コスト=ワンメイクだけが正論であるかのごとき錯覚に陥っているというところでしょうか。
しかし、FNより遥かに人気の高いJGTCの出場車が全てNSXだったらどうなるのでしょう? 本来、GTよりはるかに高い技術レベルが必要なるがゆえに、あんなにスパルタンな格好をしているはずのFNのフォーミュラカーが、GTとは比べ物にならないほど先進技術とは程遠い存在であることをどれだけの人が認識しているのでしょうか?外国製のワンメイク・シャシーを使うことによって日本の全てのレース技術とレース産業が衰退してしまうという事を考えたことがありますか?それに、貴方にはワンメイクのF1やル・マンが想像できるのですか?

では、改めてお聞きしますが、FNは何のために存在するべきなのでしょう。
正しい日本のトップカテゴリーのレースであるFNの理想像を語るとすれば、それはもちろん、自動車関連企業の技術力研鑚の場であり、PRの場所でなくてはなりません。自動車関連企業がここで培った技術と感性が本当の意味でのF1への参加資格となるべきです。
また、ドライバーにとっても、これからの若者がFNという日本の頂点だけで満足する訳もなく、技術者と同じく、FNは単なる最終目標への通過点であることは明白ですから、そうであれば、やはりここは「F1への最後の扉」というコンセプトしか考えられません。
ドライバーにとっては、現状、ヨーロッパでもF1への正規ルートがF3からのジャンプアップとなり、ここのところ、その存続すら危うい国際F3000クラスをいまさらコピーしても、それがF3よりガタイが大きいという理由だけでは、しょせん日本という限られた地域でのお山の大将を作るのが精一杯で、世界基準から見れば無意味で魅力の無いローカル・レースになってしまうでしょう。
このチャンスに世界中のF3卒業者が次に目指すような魅力的で有意義なレースをいかに創造するかが、今、JRPに課せられた重要な課題だと思います。 こんな重要な転機に、いまだに低コストだけをメリットとして、どこかの既存のワンメイク・シャシーを推薦している人たち、それも業との馴れ合いが見え隠れするような視界の狭い話はもう止めにして、いかにすればFNを世界に冠たる立派な自動車レースにできるかという夢を語ってほしいものです。
この夢物語を現実のものとするためには、どうしても高度な専門知識をもった専門家のノウハウや情報分析が必要です。特にシャシー、エンジン、タイヤに関しては必要不可欠でしょう。
CFRPのモノコックひとつを例にとっても、入門用フォーミュラ用の百数十万円のものから、F1用のその何十倍も高価なものまであります。
そりゃF1だもの、と言われそうですが、FDでもF1でも中に乗っているのは同じサイズの人間ですから実際の大きさはそれほど変わりません。全てクオリティの差なのです。あらゆるパーツがそうして出来ていて、結果的に一台につき数百万円から数億円以上までの価格差が生じます。
もっと難しいのは開発費です。これはソフト面のことですから青天井で、一口で言うと競争度によって決まると言えます。ワンメイクが価格的に有利なのは量産により部品コストを抑制できるということもありますが、なによりも競争がありませんから開発費がかからないというメリットが大きいからです。
またこれに、コスト/性能/耐久性という相関的要素も加わってきます。HONDAのSRS-FやFDは安全性の向上のために初期の開発費とコストを犠牲にしても品質を高めた結果、通常の数倍の耐久性が得られたので、結果的にコストダウンにつながったという事実もありますから、レーシングカーというものは、高度な専門知識を持って充分な調査のもとに選択すべきです。

まだまだ、その他にもいろんな技術的な要素が複雑に絡み合って「何を作る」ということと「いくら」という関係は成立しており、私たちから見て、ハードウェアに対する専門知識や見識を持たないままFNの未来を語ること自体が非常にナンセンスだと思っています。
シャシーの価格はクオリティによって決まってくるものですから、安いシャシーはクオリティが低いというあたりまえの事実をよく認識し、安物を使う場合はそれなりのレベルのレースを目指すべきで、仕入れの安い材料を使いながら一流料亭を装うようなギミックだけは避けてほしいものです。

F3000からFNへの転換期、当初は、ワンメイクとなった国際F3000に追従しないで独自のレースの形を選んだまでは良かったものの、そうなると、国際F3000用の性能の低いワンメイク・シャシーはFNでは使い物になりませんし、反対に、独自のFNシャシーはワンメイクの国際F3000には投入できないという、いわば何の接点も無い二つのカテゴリーであるにもかかわらず、レギュレーションだけは安易に国際F3000を流用した結果、独自車両であるにかかわらず国際F3000の亜流の安物レースと位置づけられている現実や、ワンメイクを避けて複数コンストラクターの三つ巴の戦いを演出したつもりが、結局、ワンメイクになってしまった現状は、レースとレーシングカーの技術面を把握していれば充分に予測できた予定調和のような話です。
複数コンストラクターの三つ巴の戦いは、当時、世界中で同種のレースが開催されていましたから、コンストラクターは、その世界のマーケット相手にシャシーを売っていた、その一部が日本に入っていただけの話であり、高々、20台規模の日本のローカル・レースのマーケットの為だけに複数のコンストラクターが新型車を投入できる訳がありません。
結局、弱肉強食、レイナードだけが残り、元々がワンメイクとは格違いの高価なシャシーですから、世界で最も高価なワンメイク・シャシーのレースとなってしまいましたというお粗末です。
また、HONDAからのMLシャシーやロングライフ・エンジン供給の打診を門前払いしてしまった経緯や、F3000の一方の立役者であったタイヤメーカーを排除してワンメイクタイヤにしてしまった事情など、全てをもう一度、客観的な立場から検証してみたら、JRPの思考回路の一部か一部の人か知りませんが、案外、壊れていた「部分」がはっきりと見えてくるかもしれません。
レイナードが倒産して嫌でも何かを決めていかなければならない今、お金が無いから何か見栄えの良い適当なシャシーを探すというような短絡的な発想ではなく、この際、明日のFNを創造するという希望に満ちた方向性を模索していただきたいと、切に願って止みません。

注)以下に、当時、考えられる具体的な選択肢を列挙していましたが、今から見返すと時代にそぐわない提案もありますので削除しておきます。

このように選択肢はいろいろと考えられる訳ですが、とは言いつつも、夢は夢として、現状を鑑みるにFNが選べる道はどう考えてもひとつしか無いでしょう。今年、レイナードの新車を買ったチームも少なくありませんし、まだまだ新しいシャシーがたくさん活躍している現状で、これを総入れ替え出来るわけも無く、かと言ってこのままバッタ物となってしまったレイナードを使い続けては日本のトップカテゴリーにはなじみませんから、②の国際F3000ローラの導入しか考えられません。
先のローラは使い物にならずに敗退してしまい日本での評判は良くありませんが、現行の新型ローラは外観、性能ともかなりよくなっているようですし、詳しく調べてみないと何とも言えませんが、ある程度の改良によってかなりレイナードに近い性能まで引き上げることが出来そうです。最後の詰め切れない差はレイナードに10〜20Kgのウェイトハンディを課すこと等によって調整すれば良いでしょう。
倒産したレイナードはやがて自然消滅して、いずれ、全てがローラになりますから、その間に次の延命策を考えてください。あくまで間つなぎとしての方策でしかありませんかが、いずれにしてもFNの未来を語る前に、まずJRPは正しい思考回路を整備することが先決だと思いますよ。今度こそ正しい指針を示されんことを切にお願いしたいと思います。

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