﹁劣等中学生﹂ 私も鮒子田も︑バイクの時代はあまりに金がなさ過ぎて何もできなかった︒というよりは︑バイクに乗れることがそもそも恵まれていたので︑あまり贅沢は言えなかったが︒ とにかく︑バイトで稼いだわずかなお金はすべて部品とガソリンにつぎ込み︑暇さえあったら走り回っていた︒お金持ち学校だったから級友の多くがバイクに乗り始めていた時期であり︑鮒子田と私の卓越したバイクの知識はけっこう光っていたし︑学内でのわずかなる存在価値の拠りどころともなっていた︒ 毎日毎日︑京都近郊の山道を走り回っていたが︑なにしろただのツーリングではなく速さを追求しているのだから危険この上ない︒まあ︑鮒子田も私も基本的には怖がりなので無理をすることはなかったが︑それでも︑走行中に︑サイクルフェンダーのステーが緩んでタイヤに巻き込み空中を一回転して着地したり︵鮒子田︶︑自衛隊の演習場である広大な砂地を走っていたら︑全く見えなかったが︑戦車を隠すための大きな溝が掘ってあって向こうの壁に突き刺さっ73劣等中学生
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