思い起こせばこの頃は︑こののち突入する極貧地獄に続くエントランスのようなものだったのかも知れないが︑何しろ︑ただの世間知らずの少年だったからどうする事も出来なかった︒それにしても︑今までの模型類に比較するとオーディオ機器を作りたいという欲望の大きさは比較にならず︑自分でもコントロールしようのない激情のようなものとなっていた︒ こうなると︑子供にできることは親の金をくすねるしか策はない︒幸いにも無防備な家だったから︑すぐに開けられるような金庫から1万︑2万とぬきとっていたが︑あまりにバレないから大胆になっていったところを御用となった︒ 超堅物の母にしてみれば︑驚天動地の出来事だったから大騒ぎになり︑父に︑﹁二度としないように叱ってください﹂と泣き叫びながら訴え︑久しぶりに登場の父に︑2階の奥まった部屋に引きずっていかれてしこたま殴られた︒普段︑あまり顔を合わせない父に襟首を掴まれて階段を引っ張り上げられる恐怖や︑こんな取り乱した母は見たことがないというほどに泣き叫ぶ母を目■の当たりにして︑二度とお金をくすねることはなかった︒ 幸いなことに︑裏のオンボロアパートに住んでいた洋服の仕立て職人の﹁おっちゃん﹂が︑55極貧地獄へようこそ
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