童夢へ
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 そこで︑私の部屋のベランダの手すりに電動リモコンで方向を変えられるようにした鏡胴を取り付け︑斜鏡を固定して接眼レンズの焦点を変え室内から観測できるようにした︒ これらの装置の開発には当時の私の全知全能を投入した力作であり︑とにかく誰かに自慢したいのだが︑こんな精度の代■■■物■で︑はるか何十光年彼■■■方の惑星が接眼部に捉えられる確率は微小で︑何とか月面を端っこにとらえられたら超ラッキーというあんばいだったので︑たちまちお蔵入りとなってしまい︑ついでに天体観測の熱も冷めてしまった︒ この屋根上の観測所はしばらく残っていたが︑何に使われていたかというと︑母にこっぴどく叱られた日などにはここに登り星空を見ながら︑﹁宇宙に終わりはない︒壁があるのか? じゃ︑その壁の向こうは何なんだ? 有り得ない非現実的な状況の中で我々は生きているのだからすべてが絵空事だ﹂などと考えていると︑やっていない宿題や遠足をさぼって叱られたことなんて︑とても取るに足りない些細な出来事のように思えてくるから気が楽になっていたものだ︒48

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