﹁幻のセレブ林家﹂ 私の子供の頃の林家はとても不可解な家だった︒大きな家に帰れば複数のお手伝いさんや運転手さんもいたし︑車は黒塗りのビュイックだった︒父は真っ赤な側車付きインディアンを乗り回していたし︑テレビもずいぶん早くからリビングに鎮座していた︒どう考えても金持ち風なのだが︑半面︑父が長期にわたってヨーロッパに写生旅行に出掛けたままの時期などは︑私たちはつぎはぎだらけのぼろを着ていたし︑母が米屋の支払いを延ばしてもらっているのも見たことがある︒何か︑金持ちなのか貧乏なのかよく解らない家だったが︑ある時︑運転手さんの住んでいた別棟の本当の持ち主が現れて返却することになった︒返却先はもともとここに住んでいた人の娘さんらしいが︑両親が戦争で亡くなられたとかで︑その娘さんが成人するまで父が頼まれて預かっていたようだ︒その娘さんはお医者さんと結婚して隣には病院が建つことになった︒ その直後︑裏のおんぼろアパートの持ち主という人も現れて︑借金を返してきたのでアパー37幻のセレブ林家
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