童夢へ
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れるのは︑少年時代に描き続けていたスポーツカーに戻っていた︒ とにかく私には︑レーシングカーを作ることだけは避けなくちゃいけないという強い呪縛があったし︑半端な計画と運営で理想とはほど遠い小汚いレーシングカーしか作れなかった今までの繰り返しだけはごめんだった︒何よりも︑お金の苦労はもっと嫌だった︒ 私は︑あえてレーシングカーを避けるようにスポーツカーの絵を描き続けながら︑心の中の空洞を埋める手だてを考えるようになっていた︒ 毎日毎日︑自動車の絵を描きながらこれからのことを考えているのだから︑自ずから︑どうやってこの絵を具体化しようというような発想ばかりになってくるし︑一旦︑そう思い出すとたちまち頭の中はそれだけで一杯に満たされてくる︒ある時点から︑加速度的に自動車を作りたい欲望が膨れ上がるととも共に︑またあの︑見境のつかない狂気が戻ってきた︒ こうなると私にはどうしようもないし︑私は木■■偶のようにこれらの欲望と狂気に操られるしかないのだが︑その木偶のような私にも残されている五分の魂が借金だけは止めてくれと叫ん320

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