﹁放蕩の日々﹂ 19歳から数年間に亘っての筆舌に尽くしがたいほどの悲惨な体験がすっかり気持ちを萎えさせていた︒作業を始めると︑必ず近所から匂いと埃と痒さに文句がでて謝りに回るのが常だったし︑興味をもたれるより奇異の目で見られるほうが何十倍も多かったし︑常に資金不足で作業が遅れ徹夜の連続になるのも︑辛いというより危険な状態に至っていたし︑途中で必ず借金をしなくては進まなくなるが︑融通を頼む時の屈辱的な気持ちは堪忍の限度を超えていたし︑なによりも︑常々私は︑母や他人からいろいろ文句を言われた時には︑﹁社会にも他人にも貢献はできないかもしれないけれど︑その代わり絶対に迷惑はかけないから︑どうか私のことは放っておいてくれ﹂と言い続けていたにもかかわらず︑くさびで思いもよらぬ大借金ができてしまった時には︑母か社会かどちらに迷惑をかけるかの二者択一状態に陥ってしまった︒いままで︑勉強も忘れて熱中してきた自分にとって一番大切なものが︑世間にとってはほとんど役立たずのくせに底なしの浪費家であることも解ってきたし︑このまま突き進むことが甲冑を着318
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