童夢へ
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払の督促と借金の依頼などの電話は家族に筒抜けだ︒頰は瘦せこけガリガリの骨と皮のような息子が︑朝と夜は電話に向かって頭を下げ続け︑日中は金策に走り回る姿を見ていた母が︑ある日︑﹁当面︑いくらあったら落ち着くの?﹂と聞いてきた︒ 私は︑母に無心するつもりもなかったしお金を出してくれるとも思っていなかったから驚いたが︑﹁他人にご迷惑をおかけするくらいなら私が出します﹂と言われて︑私は︑頭の芯から指先まで︑しびれるような熱くなるような硬直するような︑何とも言えない強い衝撃を受けた︒今まで︑この母の心配も無視し︑忠告にも聞く耳を持たず︑希望を打ち砕きながらも好き勝手してきた私の唯一の心のよりどころが︑母に物質的な負担だけはかけないという自分なりのけじめだったし︑この状態はある種の自立だとさえ思って心の支えにしてきたのに︑この母の提案は︑母に迷惑をかけるか他人に迷惑をかけるか選びなさいという究極の選択であり︑また私には︑そのどちらかを選ぶしか道はなかった︒ 母に頼るしかないことは明らかだったから︑300万円ほどを用立ててもらって緊急の案件だけは回避したが︑母の好意には感謝しつつも︑重い重い敗北感というか挫折感というか︑こんな道楽三昧をしている私を支えていた最後のプライドまでが崩壊していく感覚がはっきりと269京都へ

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