そこまで性能を追求するならばフェラーリの図体の大きいボディは抵抗が大きすぎてリスクが大きいから︑ベース車両を他の車両にすべきだと主張したが︑フェラーリへのこだわりは強く変えそうもない︒ まあそれ以前に︑現在のGTマシンの開発は個人の手に負えるものではなく絶対的な予算規模が違うから︑土台︑無理だと説得したのだが︑そのうち︑話が昔話に及び︑﹁くさびの完成が遅れて鈴鹿の500㎞には出られなかったな﹂とか﹁コンレロエンジンを売ってしまったから仕方なくS8のエンジンを積んだけれど︑パワー不足で走らなかったな﹂とか身につまされる話ばっかり出てくるものだから︑私もだんだん昔の恩義を思い出し引くに引けなくなってきてしまった︒ 予算は3000万円というからアマチュアチームにしては高額な開発費だが︑現在の水準からすれば1桁ちがう金額だ︒風洞実験をするとなると風洞模型を作るだけで吹っ飛んでしまう金額だから︑経験的に処理していくしかない︒幸いなことに技術トップの奥 明宋が慶治と仲良くなり協力的だったので下駄を預けたが︑工夫に工夫を凝らし抜ける手はすべて抜いて大赤字ながらもマシンは完成した︒265田中慶治
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