﹁柿の木坂の家﹂ そのうち︑近くだった拓也の家に遊びに行くようになったが︑拓也のお父さんは高名な工業デザイナーで︑そのアトリエは私の理想とするようなおしゃれな環境だった︒息子の学校リタイアの原因を作った男の訪問にもかかわらず︑お父さんは気安く歓迎してくれた上にデザイン界の裏話を聞かせてくれたり麻雀をしたり︑とにかく気楽な家柄で︑私は︑気がつけばMの実家から拓也の実家に居候先を変えていた︒ 移転の最大の理由は拓也のお姉さんの存在が大きい︒明るくて活発でしゃきしゃきしていてテンポが早く小柄でキュートという感じで︑一目会って気に入ったからいつの間にか居候を決め込んでいた︒ そのうち︑彼女とはとても仲良くなって東京でのレーシングカー作りはますます楽しいものになっていったが︑ち■っとした誤解から仲たがいして︑やがて彼女は結婚してパリに住むようになり何年も音信も途絶えていた頃に﹁京都に遊びに行くから案内して﹂と唐突な電話がか236
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