付き添っていた当時の彼女は医者に対して︑﹁もっと対処できることがあるはずだ﹂とか﹁もっと精密な検査をしてください﹂とか︑必死になって文句を言ったり哀願したり︑我々とは少し落差のある対応をしていたのが気がかりだった︒ その日の夜は︑心配ながらも命には別状はないだろうという雰囲気だったので病院の周りをうろうろしながら眠れぬ夜を過ごしていたが︑夜半になると様子は一変し︑誰言うともなく危険な状態だとの■が飛び交うようになってきた︒﹁うそだろー?﹂と言うのが我々の正直な気持ちだったが︑刻々とその■はリアリティを増し︑ついに浮谷は帰らぬ人となってしまった︒ 人の死︑それも最も親しい間柄の親友を失うという初体験は大きなショックではあったが︑それから以降︑ずっと言われ続けているシートベルトを装着していなかったという浮谷の落ち度の原因を作ったのは自分だという自責の念が︑何よりも私を責めさいなんだ︒ ジ■ーナリストの星島浩さんが︑主を失った白いレーシングカーのボンネットに浮谷の似顔絵を描き︑サーキット中の車がこれに追従して追悼のためにサーキットを一周した︒ライトを点灯した長い長い車の列が真っ暗なサーキットを光の帯にしていたが︑この時︑この名155あっけない現実
元のページ ../index.html#163