童夢へ
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 夢のような話であるが︑なにしろ世界の名車ばかりで足代わりになるような手軽な車は一台もない︒しかし乗りたい盛りの私は遠慮なく︑それからは︑今日はフェラーリ︑明日はコルベットと︑とっかえひっかえ乗りまくった︒ このK氏はいたく私のことを気に入ったようで︑新しいレーシングカー作りの計画を進めながらも︑夜になれば私を京都や神戸に連れて行って︑当時の有名クラブ﹁おそめ﹂や﹁ベラミ﹂なんかにも同行させた︒カードもない時代︑だいたい支払いは現金だが︑いつも札束の詰まったカバンを持って支払いをするのが私の役目だ︒つまりカバン持ちというわけだ︒ また︑夜中に神戸の自動車ディーラーの中古車展示場に忍び込み︑置いてある車の年式と程度を一台ずつ調べる手伝いをさせられたこともある︒後で理由を聞くと安く買うためだという︒ おおむねの価格を集計して︑仮にすべての車の合計が5000万円だとしたら︑次の日に所長に面会に行って︑現金を積みながら﹁4000万円ならキ■ッシュで買うで﹂と持ちかける︒相手が︑﹁ではさっそく計算して﹂と言うと︑﹁誰がそんな普通の買い方で全部を買ってくれるんだ? 私はざっと見た勘で査定してギ■ンブルを楽しんでいるんだから即答しろ﹂と迫ると︑これが必ず売るんだよとのこと︒131不思議な不思議なK氏との日々

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