﹁優勝﹂ この激動の1■月の成果がそこにあったが︑それは私が想像していた華麗なシェイプを持つレーシングカーとは似ても似つかぬ醜い代物だったし︑何よりも私は心身ともに疲れ果てていた︒パドックに並べられた不気味な改造車に対する人々の視線も■笑のようにしか思えないほど気持ちが萎縮していた︒帰ってからの父との確執も気を重くしていたし︑FRP材料や材木屋への借金返済の目■■処もなく︑そこには︑19歳の世間知らずにとっては過酷すぎる現実が浮き彫りにされつつあった︒ やがてGTを手伝っていたが︑あれこれ忙しく立ち働いているうちにあっけなくレースはスタートし︑すぐに浮谷がトップになった︒ 私は︑ピットの前縁に立ってぼんやりとレースの進行を眺めていた︒自分の手掛けた改造レーシングカーのトップをひた走る雄姿が手放しで喜べないような現実を背負いながら︑それでも︑−1 のレースの時間がやってきて︑私もピットの中でサインボードの準備など126
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