童夢へ
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が流れていたが︑私は工具を手にする気力も失■せていた︒絶望感とか失意とかもさることながら︑脱力感というのか動くためのエネルギーそのものが枯渇したような感じで︑長い間︑ハードトップの型にもたれて意味もなく天井を見続けていた︒ しばらくしてやってきた母は︑﹁みのるは︑浮谷さんとの男の約束を守るために必死に頑張っているのですから私に免じて一日だけ我慢してください︑と言って説得してあげたから︑今日だけは作業してもいいけれどなるべく静かにしなさいね﹂と言ってくれた︒ あれだけ︑私の車に対する情熱を子供の不良化への元凶と忌み嫌っていた母のこの支援は意外だったし︑父が妥協したことにも驚いたが︑仕方なしであれ︑この期に及んでの二人のくれた免罪符に︑私は理屈抜きに感激し歓喜した︒今までの孤立無援で孤独な作業の連続に萎えきっていた気持ちに︑この母の気遣いはポパイのほうれん草の何倍もの力を与えてくれたようで︑私は絶望の淵から立ち直り︑気を取り直して作業を再開した︒ さすがサンダーをかけるのは気が引けたので面出しはあきらめ︑ジグソーを使わずに金鋸の刃で切れるところだけ切って︑ギリギリになってやっと鈴鹿に持ち込むことができた︒ いつ鈴鹿に持ち込んだのかは覚えていないが︑たぶん︑土曜日の早朝というようなデッドラ121カラス

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