相変わらず荷台での作業が続き︑レースの直前には何とかそれらしい形にはなってきたが︑あと3日で鈴鹿に持っていかないといけないという瀬戸際になって︑今度は雨が降り出してきた︒ベニア板を多用した型類に雨は大敵である︒急いで型やFRP材料を実家の玄関口のひさしの下に積み上げて私は茫然と立ち尽くしていたが︑目の前にあるのは︑どこから見てもレーシングカーのパーツとは思えないようなゴミの山だったし︑今までの開発シーンといえば︑大阪ガスに怒られたり︑近所のおばさんに怒鳴り込まれたり︑歩道で寝ていて救急車で運ばれかけたり︑道行く人の奇異の目を無視しながらトラックの荷台でFRPの張り込みをしていたり︑いままで憧れきっていたレーシングカーを作るというイメージとはほど遠い惨め過ぎる現実に戸惑っていた︒しかも︑この期■に及んでトラックの荷台という唯一の仕事場を失うという過酷な展開には︑何の対応策も考えられずに途方に暮れていた︒ 普通に考えれば︑諦めるべきタイミングは何回もあったが︑そのつどに私の理性と体が別途のロジックで動いているように手が先走って理屈を超えた行動をとり続けてきた︒ 雨の降り続く中︑この型類を濡らさずに移動できる場所は自宅の中だけだった︒切羽詰まった私は︑いつの間にやら半完成のボディパーツ類を自室に持ち込み最後の仕上げのための作業119カラス
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