終わりだなと思って打ちひしがれていたら︑浮谷はまったく能天気に︑次の日もまた次の日も︑﹁どうなった?進んだ?﹂と電話をかけてくる︒ 私は基本的にはやりたい一心だし︑浮谷が私を切り捨てたわけではないのなら続けたい気持ちは一杯だけれど︑なにしろ︑場所もなければS600も手元にないし予算も底を突いている︒シンデレラのカボチ■の馬車のように魔法でも使わない限り実現は不可能な状況だった︒ その時は︑作りかけのノーズコーンのオス型と︑これも作りかけのハードトップのオス型と︑S600を持ち帰る前にできるだけ取っておいた各所の型紙だけが残っていた︒この型紙すら︑厚手のボール紙を買うお金を節約してペラペラのスケッチブックで取ったのであてにならない︒ この時点であと2週間もなかったと思う︒どうしても自分の手がけた車がサーキットを走るのを見たかったし︑二度とこのようなチ■ンスが訪れる可能性はほとんどゼロに近かったから︑状況は困難を通り越してほぼ絶望的だったけれど︑頭の中と気持ちは全く乖■■■離してばらばらに動いているように︑気がつけば︑私はトラックの荷台の上で中途半端なノーズのオス型を磨き始めていた︒116
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