するわ︑このガレージは近所からの苦情であっという間に追い出されてしまった︒ そしてもっと困ったことに︑そんな頃︑浮谷から﹁タダでサスペンションのチューニングをしてくれるというところが見つかったから︑至急︑S600を東京に持ち帰りたい﹂という電話がかかってきた︒私は︑完成するまではS600を預かっていられるものだと理解していたし︑事前の打ち合わせでもそれを前提に話をしていたつもりだったから大変に驚いた︒ 寝耳に水という感じだったが︑原型となる車がなくなると作業が進まなくなるからと強く説得を試みたものの︑半面︑かえって重くなるような空力的な改造がサスペンションのチューニングより速くなると言いきれるほどは自信がなかったので︑しぶしぶだが返却に同意してしまった︒ ガレージを追い出され︑ベース車のS600はなくなり︑作りかけの型類を友達から借りたポンコツのトラックの荷台に積んで途方に暮れていたが︑お金や時間だけでなく︑これだけないないづくしでは振り出しに戻るよりも︑もっと逆戻りしてしまったような気分で気持ちも萎えていたし︑よく考えたらできるわけがないと考え直した浮谷が︑事実上の中止を告げたとも考えられるし︑かけられた梯子を外されたような落胆も感じていたし︑いずれにしてももう115カラス
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