﹁カラス﹂ 大仕事を成しとげた我々の結束は強くなったが︑鈴鹿で目立って速かった鮒子田や横山に有力チームからお声がかかるようになり︑一気に夢の成就が具体性を帯びてきて有頂天になっている二人を羨ましく眺めながら︑私はといえば︑一歩前進するきっかけの糸口さえも見つけられないまま︑相変わらず︑絵を描き本を読みバイトに明け暮れるだけの毎日が続いていた︒そのころは既に浮谷も鮒子田も横山もS600を入手していたが︑当時の私は浪人中で︑真面目一方で超堅物の母から見れば︑信じられないほど出来損ないの息子が人生のレールを踏み外している真っ最中だから︑日々︑口に出る言葉は﹁真面目に勉強して大学に行きなさい﹂ばかりで︑﹁車を買ってくれ﹂なんて間違っても口走れないような状況下にあった︒ そんな閉塞感にもがき苦しんでいた頃︑東京に行っていた鮒子田から電話があり︑﹁浮谷が︑自分のS600を林のいつも言っているような改造をしてGT|1のレースに出たいって言ってたよ﹂と伝えてきた︒107カラス
元のページ ../index.html#115