ブラジャーVSレーシングカー 2
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15第1部 「林みのる」の引退と事件の発端まで(山口正己特別寄稿)していたマクロな視点だ。ここ20年ほどにわたっての「林みのる」の発信する意見はさまざまな雑誌の特集やコラム等で発表されており、今でも、自身のホームページである「林みのるの穿った見方」に多くの意見が掲載されているが、よく観察すると、利己的な言い分は一言も見当たらない。ただし、それは意見としては的を射ているものの、もともと次元が違う視点で意見を発信しているので往々にして誤解されることが多いのだが、よく観察すると、林の発する言葉は物事の真理を突いていて我田引水な発想がまったく介在していないことが解る。林の意見は、一貫して、日本のレース界や自動車メーカーが海外に技術を頼ることを批判し、国内の技術力と産業の育成を蔑ろにしたら日本の自動車レースの発展振興はおぼつかないと警告を発信し続けている。それは、口先だけではなく、事業で得た利益のほとんどをル・マン24時間レースに投じたり、日本の自動車レースで使うレーシングカーの開発に投じてレース界に提供するなど、一途に、日本の自動車レース産業の発展と技術力の向上に公私の境なく尽力してきたことでも証明されている。しかし、そうしたことを普通は誰もやらないので、林の行ないは理解されにくく、林が 提唱するレーシングカーの国産化に対しても、日本の自動車レース界からは“自分の所だけ儲けるためだ”と思われて反発を受けることが多かった。こうした中、失意のうちに引退を決意した林みのるだが、やはり只者ではなかった。それからの気宇壮大な計画については下段で詳しく説明するが、書いていて思うのは、そこに緻密な計算や計画があったというよりは、「林みのる」としては、後先考えずに、自分にとって相応しい華々しい幕の引き方だけを頭に描いて悦に入っていたのだろうとしか思えない。その生き様は、しごく一直線でシンプルに見えるが、非常に論理的で計画的にも見えるし、総てを日本の自動車レースの発展にささげてきたようにも思えるが、ひたすらレーシングカーを作りたいという利己的な欲望に向けて突っ走っていただけのようにも見える。どちらにしても、一般的な尺度では測り知れない想定外な人物、それが「林みのる」だ。レース・ジャーナリスト山口正己 

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