129第11部 お口直しの林情報(山口正己特別寄稿)第1章 京都における取材の壁この事件を解りにくくしている最大の要因は、洋子氏がワコールの娘であるというブランド力だろう。「あの資産家のお嬢さんが、そんなことをするはずがない」という思い込みが真実を捻じ曲げているのだろうか、洋子氏自身が裁判で、繰り返し「名声と社会的信用がある」と宣わっているのも、あながち間違いではないようだ。もう一つの要因が、京都という町の特殊性だ。出来るだけ多くの人から話を聞こうと努力したが、通底する「ワコールさんの話はできまへん」という感じの京都人たちの対応には参った。誰も彼もが非協力的であり、無関心を装っている。答えてくれたのは一握りの林氏の親友だけだったし、それでも、名前を出さないならと条件を付ける人ばかりだった。つまり、京都という町でワコールに盾ついて損をすることがあっても得をすることは何もないから、みんな見て見ぬ振りをしてやり過ごしている雰囲気が、まざまざと伝わってくる。第11部 お口直しの林情報 (山口正己特別寄稿)私(山口正己)は、本事件の資料を調べているだけで嫌悪感が沸き上がってくるし、まして林氏の人となりを知り尽くしている私としては、その実態と洋子氏の作り出す虚像との光年単位の距離感には腸が煮えくり返るほどだから、何とか、本当の林氏を知ってもらいたいと思い、この項の執筆を申し出るとともに、かねてから疑問だった、京都の人たちの、この地元の大事件に対する無関心ぶりの原因を探るために、京都に取材に訪れた。ジャーナリストの軸足として取材は命だ。しかし、取材すればするほど、この事件、何とも解せないところが多い。ちょっと調べただけでも、トータルすれば、おおよそ10億円(最後の最後に7億円に圧縮)という大金が、林氏から洋子氏に流れているという事実は、裁判における判決により証明されているから疑いを差しはさむ余地はない。普通に考えれば、大金を失ったほうが被害者に思えるし、濡れ手に粟の不労所得を懐に入れたほうが加害者に思えるのに、世間から洋子氏を非難する声は聞こえてこない上、逆に「ワコールさんも困ってはる」というように、林氏に非があるように受け止めている人も多く、解せない。私は、まず、そんな噂の源泉である京都に赴いた。
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