77第6部 裁判という伏魔殿の扉を開いてしまう第1章 弁護士は慎重に選ぶべし後悔先に立たずの典型だが、私は、司法に判断を委ねるという過ちに加えて、もう一つ、大きな過ちを犯している。私は、それまでの洋子氏の安直な嘘八百をバカにしていたし、司法の場でまかり通るはずもないと高を括っていたから、難しい戦いになるとは夢にも思っていなかった。だから、簡単に解第6部 裁判という伏魔殿の扉を開いてしまう相続対策のために預かっていた私の資産を取り込んで離さない洋子氏に対して、私が何を思っていたかといえば、表層的には怒り狂っていたように見えるだろうが、芯の部分では、あまりに訳の解らない展開に、まるで超常現象を見ているような戸惑いも感じていたから、死闘を繰り広げていたというよりも、どちらかといえば、早く悪夢から覚めてくれることを願い続けていたのだと思う。本事件の元凶となっている相続対策のための名義変更も、洋子氏に対する深い信頼があったからこそ、岡本先生の指示に従って無抵抗に資産を預けて来たのであり、たぶん、相手が洋子氏でなかったら、ここまで一方的な金の流れは生じなかっただろう。それだけに、信じ切っていた人に裏切り続けられている私の気持ちは、怒りで沸騰するというよりは、ますます凍り付いていくような、まるで雪山で遭難しているような絶望感に支配されていた。それにしても、ますます世間における私にとっての悪い噂は拡散を続けていたから、どうしても真実を伝えて名誉回復をしておきたかった私は、不用意にも司法に判断を委ねることを決意する。しかし、これは、私にとってのもう一つの大失策となる。まるで白鵬と喧嘩になったから土俵に引っ張り上げたくらい有り得ない大きな間違いだった。過去において裁判沙汰を経験したことのない私は、根拠もないままに法治国家日本の司法を強く信頼していたし、これだけ嘘まみれの洋子氏の言い分が法廷でまかり通るはずもないと思い込んでいたから、いわば、子供が先生に言いつけてやるというような気持だったのだろう、 あろうことか訴訟提起に走ってしまう。しかし現実の法廷は、魔女裁判を彷彿とさせる伏魔殿だったし、想像を絶する非常識が支配する支離滅裂な世界だったから、私は、お灸をすえるどころか火炙りにされてしまうことになる。
元のページ ../index.html#103