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「JAF-F4事件と燃え尽き症候群」-レース界評論-

私は、ここ十数年に亘って、日本の自動車レースの改革を叫び続けていたが、その声がどこにも届かないのが力不足ならまだしも、どうやら、日本のレース界に私の主張が受け入れられない理由は、それを私が主張しているからだという事らしい。
それはまるで、うだつの上がらないサラリーマンたちの合コンに、「嵐」のメンバーが一人紛れ込んで、懸命にその場を盛り上げようと努力してくれるが、サラリーマンたちにとっては居なくなってくれることが一番ありがたいという状況に似ている、なんて事を言っているから嫌われるのだろう。
そういう個人的な反感に加えて、現在の技術分野を無視した形で成立している日本のレース界の中で、技術力の向上や産業の振興を言えば言うほど「童夢だけが儲けようと思って・・」と我田引水な話と受け取られ、レース界全体が抗体となって排除に動くという構造となっており、つまり、癌だ。

45年に亘って日本のレース界を見てきて、いつも思っていた事は、なぜ、いつまでもマイナーなままなんだろうという素朴な疑問だった。これがボブスレーとかの予算の少ない小規模なスポーツならいざ知らず、毎年、自動車メーカーが大枚のお金を投じて維持に努力しているにかかわらずである。
さすがに十数年前くらいからは、おぼろげながらその原因も解決方法も解ってきたし、このままでは、いつまで経っても何も変わらないことも解ってきたので、それからは、事あるごとに日本のレース界に改革の必要性を説くようになっていった。
それらの私の意見の内容に関しては、童夢のホームページの私のコラム(クルマとモータースポーツの明日 - GAZOO RACINGなど)で詳しく述べているので参照してほしいが、簡単に説明すると、日本の自動車レースはドライバーの育成だけが目的となっており、自動車 レースの本質である技術の戦いが度外視されているために、技術も産業も育たず、自動車メーカーから下賜される資金の範囲内だけで回っているから、自動車 メーカーの予算=自動車レースの規模となり、その予算規模が恒常化しているから、必然的にいつまでも変わらないという訳だ。
だから、日本の自動車レースをメジャーにする最も簡単な方法は、自動車メーカーの予算を倍にすれば、途端に倍の規模になる。次に簡単なのが、現在、自動車メーカーが無分別に海外に流出させているレース予算を国内のレース産業に回せば急激に発展する。最も真面な方法としては、技術力を育て産業を振興して自動車レースを本来の姿に回帰させるところから始めるべきというのが私の主張である。

さて、その内容はともあれ、十数年前から改革の必要を叫び始めた私だが、あまりにレース界が無反応であることと、私も、そろそろ引退の潮時が近付いてきたため、最後の悪あがきとして「日本自動車レース工業会(JMIA)」を創立し、具体的な成果を示すことによって理解を得るという道を選んだ。

この会の趣旨としては、「技術と産業の育成による自動車レースの発展振興」に尽きるから、JMIAとしてはまず、日本では絶滅してしまった概念である「レーシングカーを造る楽しみ」を復活させることを目的に、決められたレギュレーションの範囲で自由にレーシングカーを造ることができるシステムとして「F20」の構想を立ち上げた。
これにはいくつかの伏線があり、まず、安全性の見地から、モノコックはカーボン・コンポジットにする必要があったが、これは通常では非常に高価なものであるから、どうしても安価なカーボン・コンポジット・モノコックが必要であった。
その為に童夢では、かなりの開発費と時間を投入して全く新しい構造のモノコック「UOVA」を開発していたが、これとて、ある程度の数を造らないと希望の価格帯には降りてこない。
だからJMIAとしては、当初から、FJやSFJやF4へも導入し、生産の効率化を図ることによって大幅なコストダウンを実現することを考えていた。注)この時期のF4はJAF-F4を言う。
カーボン・モノコックによる安全性の確保は時代の趨勢でもあるし、安いからと言ってぶつかったら大事に至る可能性の高いレーシングカーがまかり通るご時勢でも無いだろうから、童夢としては、レース界への奉仕活動くらいの気持ちでお金と時間をつぎ込んでいたものだ。

そこで、FJやSFJやF4をここまで育ててきた立役者であるWESTの神谷をJMIAの理事に招き入れて、協力しながら、日本の自動車レースの発展振興に努力することをお願いした。
当時の課題は、FJ、SFJ、F4へのカーボン・モノコックの同時導入であり、特にF4はレギュレーションでカーボン素材の使用が禁止されていたので、このレギュレーションの改正も急がなくてはならなかった。
当初から神谷はJMIAのF4への進出を危惧していたが、JMIAとしては、もとより、神谷が作り育ててきたと言えるFJ、SFJ、F4に手を出すつもりは毛頭なかったから、避けて通る意味からも、もっと自由度の高い、スポーツカーも可能なF20という新たなカテゴリーの構築を目指していた。
JMIAの会員企業により、3台のF20のプロトタイプも完成して発表会でお披露目するなど着々と準備が進む中、JMIAの理事会では、神谷が担当しているはずのUOVAのFJ、SFJ、F4への導入がまるで進まないから、月に1回の理事会で、毎回のように「どうなった?」と聞いてもまるで埒があかない状態が続いていた。

この神谷が、事実上、主宰するF4協会にはJMIAの理事も参加しているのだが、その人たちに聞いても進捗具合が掴めない。なんか、F4協会の周りだけ霧がかかっているように見えにくくつかみどころのない時間が過ぎていった。
そのうち神谷から、「モノコックがカッコ悪い」とか「安全性が保障されていない」とか意外な言葉が出てくるようになって、「えっ!何?」と思う間もなく、JMIAを脱退してしまった。
JMIAとしては、FJ、SFJ、F4に対するUOVAの販売はWESTに任せると決めていたし、充分な利益幅も提示していたから青天の霹靂だったが、問題は、 UOVAの生産量が確保できないと、目標としていたアルミ・モノコックなみの価格が維持できないことだった。
当時、誰に聞いても、神谷が飛び出していった理由は定かでなかったが、何人かの人の意見では、あまりにFJ、SFJ、F4へのUOVAの導入の進捗が遅いのに業を煮やした私が神谷に、「いつまでも危険なレーシングカーを走らせていられる時代じゃない」と言ったのを「お前が危険なレーシングカーを走らせている」と言われたと思って、いたくプライドが傷ついたということらしいが、まあ、そういう意味だから誤解ではない。

神谷が飛び出して、UOVAをFJ、SFJ、F4に導入するという話は頓挫してしまったが、既に、F4へカーボン・モノコックを採用できるようにレギュレーションを改正するような手続きは進んでいたので、それはそのまま進めることにした。
基本的に、F20を立ち上げようとした背景には、神谷が育てたF4には介入しないという前提が大きく影響していたのだから、神谷が反旗を翻して去った今、もう遠慮や配慮は必要なく無くなったという事でもあった。
そこでJMIAは大きく方針変更し、F4のレギュレーション改正を急ぎ、カーボン・モノコックの採用を可能とした後、 JMIAの総力をもってF4に参入し、技術力を投入して戦える日本では数少ない自動車レースとして、F4の発展振興を図ることによって日本の自動車レースの改革の礎にしたいと考えるようになった。
そして、2010年度のレギュレーション改定案をJMIAの技術担当者が作成してF4協会にデータを送り、F4協会からJAFに提出されるという段取りで進めることになったが、通常、JAFは何もしないことを前提に存在する有名無実の組織だから、めくら判を押すだけでそのまま採用となる。
忘れもしない2009年の7月7日の夜、これは、この書類がJAFに提出される前夜の事だが、私が銀座で酔いしれている最中にJMIAの理事から電話があり、たまたま、そのJMIAの理事の知り合いのJAFの技術担当(ほぼボランティア)が、その日にF4協会から提出されたレギュレーション改変提案書に目を通していたら、その提案書からカーボン・モノコックの項目が削除されているらしいとのこと。
そのJAFの技術担当がレース業界の人であり事情を知っていたから発覚したものの、通常は、そのままJAFに提出されてめくら判を押されてお終いであり、こういうところだけ役所的杓子定規なJAFがこの裁定をくつがえすことはあり得ないから、つまり、かなりの確率でカーボン・モノコックの採用は一年先延ばしされていたという事だ。
だれがこれを実行したのかは知らないが、JMIAからF4協会にデータを送り、F4協会がプリントして捺印してJAFに提出した過程で改竄されたという事である。
まあ、JMIAに決定権があるのかというとそうでもないので規約的に何が正しいという話ではないが、UOVAなどの準備が整いつつある状況を熟知しての露骨な妨害行為は、JMIAのF4協会に対する気遣いというか思いやりというか、そういう気持ちを根こそぎ吹き飛ばすに充分な行為ではあった。
しかし、JMIAの理事にはF4協会にも参加している人も少なくないし、何と言っても、ほぼ全員が神谷とは旧知の仲なので、JAF事件には驚いたが、その時点では、まだ、F4の発展振興が先決問題だったし、まだ、神谷を叩き潰そうなどと言う意見は無く、何となく全員が、その内、解ってくれるだろうという雰囲気を共有していたことは確かだ。

ところが、その後の鈴鹿あたりでは、やれ、「UOVAはぶつかるとパラパラになって危ないらしい」とか「FIAの安全基準をクリアしていない」とか、いろいろな誹謗中傷が聞こえるようになってきた。
あえて注釈を加えるなら、もとよりF4に安全基準は存在しないし、既存のアルミ・モノコックがFIAの衝突試験を受けたという事実はないし、UOVAはFIAのF3の安全基準に準じた試験をパスしている。つまり、事実無根の単なる誹謗中傷である
その上、日本で唯一と言える自動車レース専門誌である「AUTOSPORT」の編集長からは、その公式web上で、まるでF4の破壊者のようなそしりを受けて、そこには、想像だにもしていなかった侵略者に対する排他的な雰囲気が盛り上がりつつあった。

アルミ・モノコックと同等価格のカーボン・モノコックの実現は、発明と言っても過言ではないほど価値のある開発であったと自負しているし、これが無ければF4に未来はなかっただろう。そして、UOVAやF20やJMIA F4やエンジンやギアボックスの開発や車両の制作費やワークスチームの投入などを含めると、JMIAの会員企業の先行投資は莫大である。
このご時勢、大変なリスクと決意を背負って努力しているボランタリィな事業に対して、このような根拠のない誹謗中傷には、本当に落胆したし、初めて失意という言葉が実感として身に染みたものだ。
なけなしの金で山ほどのプレゼントを買って孤児院を訪れたら、つまみ出されて塩をまかれたような気分だが、その時点では、その孤児たちの思惑は理解できていなかった。

それでも、やりかけたことはやり遂げて結実させてないといけないという思いは強かったので、なけなしの予算から賞金を捻出したり、いろいろな企業から副賞を集めたり、JAF GPのサポートレースに入れてもらったり、国土交通大臣杯の授与を取り付けたりと、いままでのF4とは次元の異なる華やかさの演出や出場チームの確保など に努力するとともに、反発を強める可能性が高いので、楽しみにしていた童夢自身のコンストラクターとしての参加は断念するなど、それなりの配慮もしてきた。
ところが聞こえてくるのは、JMIA F4以外の参加者から、JMIAのお膳立てしたJAF GPはボイコットするとか、例え国土交通大臣杯の授与の対象となっても受け取りを拒否するとか、想像を絶する反発の声だった。

志を理解してもらえずに挫折するとか、真意が伝わらないというような話とは程遠く、この連中の思考回路がどれほどねじ曲がっているのか理解不能だったが、いずれにしても、我々の努力の結果を、ボイコットしたり拒否したりという嫌がらせ的行為で潰しにかかろうという魂胆は、例えその行為が未遂であったとしても、私のF4の発展振興に賭ける思いを踏みにじるには充分な出来事だった。
そのような、謎が謎を呼ぶ展開も、突き詰めていけば、日本で唯一、本格的なレーシングカー開発能力を持つ童夢という目の上のたんこぶに対する警戒心からくるものであり、すなわち、童夢という存在が目障りで邪魔でしょうがないから、レース界からは、何をしても無視か反発しか返ってこないという訳だ。
植木等流に言えば「お呼びでない?」というフレーズになるだろうから、「こりゃまた、失礼しました」と退場するしかない。

そんなこんなで、結構、凹んでいた頃、SGTにZYTECのハイブリッド・システムをワンメイク導入することが検討されているという噂が聞こえてきた。その後、FNへの採用も検討されているとも聞いた。
今の日本の自動車業界に誇れるものはハイブリッド技術くらいしかないし、また、これからの自動車産業にとって重要な技術的要素であるハイブリッド技術を、全ての自動車メーカーが足並みをそろえて英国のベンチャーから導入するというのだから、私はこの話を聞いた時にわが耳を疑ったが、残念なことに事実だった。
旗を振っているHONDAの担当者に売国奴とまでその行為を謗(そし)ったが無視されて、着々とテストカーまで作られてしまったから、「日本の自動車レースの技術と産業を発展振興させよう」と叫んでいる私には訳が解らなかったし絶望しかなかった。
SGTでもDTMの導入が検討されているが、関係者に、真剣に技術面での考察検討を行おうとする感性が欠如しているから、つまるところ、DTMに与(くみ)される結果になるのではないかと憂慮している。
FNもFCJも、依然、外国製のレーシングカーへの憧れが強いのか、レース界の構造的問題なのか、そこに、日本の技術と産業の育成などと言う理念は欠片(かけら)もない。
ここでも、それらの国産化を考えた場合、全てが童夢に利するというか童夢頼りになることに対する警戒感のような感情が作用していることを感じるし指摘もされるから、つまり、童夢の存在が、日本の自動車レース技術や産業の発展を阻止している要因となっているということだ。

自腹を切ってレース界の為に奉仕的に貢いできた結果、全てにおいて、私利私欲/我田引水と反発されるのだから、募金箱に金を入れる度に殴られる街頭募金のようなもので、怖くて近づけなくなるし、それでなくても、F4問題で燃え尽きそうになっていた私の自動車レースへの情熱の残り火が、気がついたら消えてしまっていた。
過去にも、何回もギブアップしそうになりながらも、まだ何とかなるのではないかと未練を残したまま諦めきれずにいたようなところはあるが、今回は、完全にメインスイッチがOFFになったような気分であり、既に、自動車レースを遠くから眺めている自分が居て、「終わった」ことを実感している。

林 みのる