COLUMN / ESSAY

「開発進むS102」 ―S102開発レポート―

童夢RL-80

童夢RL-80

1979年に、初めてルマンに挑戦したときは、何が何でも勝ちたくて、予算も無いのに2カーエントリーしたために予算が分散されて、それは悲惨な内 容の体制にしかなりませんでした。また、ルマン=ストレート速いという単純な図式を重視するあまり車幅を狭めすぎてコーナリングが遅く、ストレートは早い けれどラップタイムは遅いという当たり前の落とし穴にはまったりしていましたが、スピードを追求するあまり、当時のグループ7はオープンの規定だったにも 関わらず、バックミラーカバーと称して屋根を付けて車検に挑み、案の定、日が暮れるまで(ルマンの場合、夜の10時くらい)車検が通らず、帰ってしまった 車検委員長の自宅まで頼みに行って、やっと通してもらったような有様でした。
しかし当時は、こんな一か八かの賭けができるほど勝ちにこだわっていたし、冒険心にも満ちあふれていました。車検が通らない危惧より、セミクローズドのアイデアを捨てるのが嫌だったからに過ぎませんが。

S102完成予想図

S102完成予想図

当時も現在も、レーシングカーは一定のレギュレーションのもとに製作されますが、現在のレギュレーションは、ACOの人た ちの懐古趣味を押し付けるために、主として、昔のグループCカーの形になるような規制で網羅されています。その意図を素直にくみ取って開発すれば、彼らの 思惑どおりのレーシングカーばかりになるのでしょうが、当然、開発技術者は、その裏を突いて、より効率の良い形状を追い求めますから、この、ざるのような レギュレーションがもたらすものは、ACOが決めた寸法を満たすためだけの役目の板きればかりが点在する、奇妙で同じような形のレーシングカーばかりで す。

問題は、この稚拙なレギュレーション設定だけではなく、風洞実験と言う開発プロセスにもあります。いかに風洞と言えども、 数限りない造形の全てを比較検討できる訳ではないので、当然的を絞って開発を進める訳ですが、この的を絞るという段階での冒険心や創造力や独創性の持ちよ うで、ほぼ、生まれてくるレーシングカーの運命は決まります。
というのも、その後の空力開発というプロセスは、デイテールの寸法や形状を比較選択するだけの作業であり、創造とか発明とかいうレベルとは別次元の地道な作業となるからです。
すべては開発者が、AUDI、Peugeotと一線を画したレーシングカーを求めることをテーマとするのか、空力開発を進めるうちに、AUDI、 Peugeotに酷似してくることを、数学の問題が解けて回答と照らし合わせる喜びのように感じるかの違いによって決まります。

S102 25%風洞モデル

S102 25%風洞モデル

鈴木英紀のレポートでは、盛んに、9月に発表したイラストのインチキくささが強調されていますが、わたしがあれを描いたの は、開発の行方をごまかすためでも何でもなく、ACOの意図する形はこんな形だけれど、さて童夢は、どこらあたりまで意図を汲むのか裏をかくのか、どうす るのですか?と言う、いわば、童夢開発陣に対する問題提起でした。
もちろん、私の望んでいたS102は、Peugeotとは似ても似つかぬ形ながら、とんでも無く速いレーシングカーでしたが、童夢の開発陣は最初の段階か ら、最大効率の追求、つまり、Peugeot的形状のファインチューニングの方向を選択しました。

そう思っているのなら、社長なんだから何とかしろ!という声も聞こえてきそうですが、ここのところ、童夢カーボンマジック の立ち上げに専念していて、レーシングカーの開発からは少し距離を置いていた奥を、S102の開発責任者に復帰させましたので、私の思考行動パターンを読 み切っている奥の采配は絶妙で、しおらしく、ここらあたりの形はどうしましょう?とか聞いてくる時点では、すでに周囲の形状は固まっているは時間は無いは で、結局、私に出来ることは、角Rを少し付けたり減らしたりするのが精いっぱいです。

S102 40%風洞モデル

S102 40%風洞モデル

私は何も、デザインのために性能を犠牲にしろと言っているのでは無く、同じ設問に対して同じ答えを出すということは、そのライバルを超えようとする行為ではなく、単に、同等であることに安心しているだけで、その時点で負けです。
こう言うと開発担当者は、ここもあそこも違いますと言うでしょうが、説明を受けないと解らないような違いは、解答用紙の字がきれいな程度のメリットであり、同等と言う評価には変わりはありません。

既に、私にとってのS102は、究極の童夢のルマンカーに対する実験機となっています。この実戦データを分析しながら、同 時並行的に、全く新しい概念のルマンカーの開発を開始するつもりです。もっと基本的な形状から掘り起こす必要があるので、京都の旧社屋内に、基礎研究に適 した30%スケールの風洞を新設する予定です。まだまだ挑戦は続きます。一体、いつになったら隠居できるのでしょうね。