COLUMN / ESSAY

「No!! KOOSOKU」 ―闘病記―

「No!! KOOSOKU」って、レースが仕事なんだから高速はしょうがないだろう?実は私こと林みのるは、かの長嶋監督と同じ日に同じ病気を罹患しま した。しかし、担当医も奇跡とささやくくらい後遺症も無く、現在は腫れた脳みそが収まるのを待つだけの退屈な毎日を過ごしています。
ラッキーその1は損傷した小脳の場所が後頭部で頭蓋骨に接していた部分であること。この頭蓋骨の内面には神経が通っており、頭痛として病状が察知できたこ とにあります。もし、もっと脳内であったら神経が無いので障害が出てからしか気が付かないということになります。ラッキーその2は、どうやら完全な血栓と かいうものではなく、かなりあやふやな物質が詰まるでもなく消え去るでもなく、徐々に血液の流れを阻害するような穏やかな発生の仕方だったかも知れないと いうことです。このために、詰まった血管以降の脳細胞が全滅したというような一般的な脳梗塞ではなく、ある程度の血流が確保されていた可能性もありそうで す。ラッキーその3は、どうやら障害を受けたのが平衡感覚を司っている部分だったかも知れないのですが、その部分は三半規管や他の脳でも役割をシェアーし ている部分なので、オールオアナッシングとはならなかったようです。
まあ、あまりに退屈なので、BMWの645とクラウンとSONYのPSXを買いましたが、車はまだ乗れないし、PSXはGコード予約できないし、説明書を 読むには頭がまだ重いし、それにSONYのT1も買ったけれど、病室では撮るものもありません。
しかし、実は私はその退屈な病室の中で、日々、異常なる体験を重ねていたのです。私は自他共に認める大のオカルト嫌いで宗教も大嫌いです。科学的に説明で きること以外は全く信じないタイプです。それが、念写くらいならあり得るかもと思い始めたくらいの超常現象ではありました。
ベッドで寝ながら眼を閉じると、私の寝ているベッドの周辺だけにドーム状の部屋というか、天蓋というか、ある一定の面が構成されます。そして、その内面に たちまち超極彩色のデザインが施されていくのです。ある時は、何十万人というギリシァの兵隊が整然と行進を続けている風景がクローズアップされ、それがど んどん引いていって大渓谷の中の一筋の川に見える頃、天井方面では交差する谷間から来た他の一群と交戦している様子が伺えます。時々砲火が光ったりもして います。兵隊が落ちてきそうでおちおち寝ていられません。ただ、その景色が気に入らなければ一度眼を開ければ簡単にリセットされ、逆に、いくらイメージを そちらに持っていっても二度と同じものは見られませんでした。
スペースドクターシップみたいなものに乗せられていた時は、インパネの一つ一つのロゴまで読めるので、何語かわからないけれど控えておこうと思って、ペンを探すのに思わず眼を開けたら二度と表れなかったという失敗もしました。
しかし、経過が改善されるとともにこれらの造形やグラフィックは単純化していき、いまやちょっと土壁に毛の生えた程度の根性の無い駄作ばかりになってしまっています。
最初の頃のグラフィックは本当に人知を超えたスーパーアートであると思えるほどの出来栄えだったので、付き添っていてくれた家内に刻々と変化するその様子 を実況中継していたものですが、それを担当医に相談したらしく、おかげでこれが「中脳性幻覚」というちゃんと正式に医学的な病名をもった幻覚症状と判明し ました。
脳梗塞により腫れた脳が脳幹等を圧迫し、視床のセロトニン系、コリン系の神経細胞、神経路に影響を及ぼすものらしいのですが、残念ながら、もう見えません。
「白い巨塔」を観たあとは、いくら眼を開けてリセットしても、次々と違うSF的手術台が表れて、自分自身が胸を開かれてそこに横たわっているシーンの連続 で滅入りましたが、鯉くらいの鯨と、とても可愛らしいカラフルなくらげと一緒に泳ぎまわるシュチュエーションはもったいなくて、一時間くらい眼を閉じたま ま鑑賞していたくらいでした。
病院に担ぎ込まれてからそろそろ10日になりますが、ある意味完全主義的な私としては、自分の頭の中にあんな空洞が存在すること自体が許されないという気 持ちもあるにしろ、今、自分の手足が自由にならなかった可能性のほうが高いという現状を鑑みるに、なによりも、自分自身の運のよさに感謝するしかない日々 です。今後は、脳の腫れが完全に収まるまで点滴による投薬を続けることと、再発防止対策を講じることで退院となるでしょうが、あと3週間くらいかなという 感じです。
まあ、一般的に病気は罹ってみないと判らないといいますが、私も年間330日くらいは外食ですし、週に5日は呑んでいましたし、いわゆる暴飲暴食というや つで、考えりゃ時間の問題でしたね。そんなことで寝たきりになるわけには行かないので、今回の超幸運な結果を教訓に健康に注意した生活を始めたいと考えて います。そんな訳で、皆様にもいろいろご迷惑をおかけしているかも知れませんが、しばらく休養させていただいていますのでよろしくお願いします。