COLUMN / ESSAY

「NSXが優勝した本当のわけ」 ―レース話―

ここのところ世間では、負け続けるNSXに対して開発の失敗だの努力が足りないだの、また、レギュレーションが正しいだの間違っているだの喧しい が、今回、タナボタといえども優勝したらしたで、やっぱり開発が遅れていただの、レギュレーションは正しかっただの、まったく空疎な話題が飛び交ってい る。先回のコラムで書いた「NSXが負け続ける本当のわけ」の中で私が言っているのは、性能調整システムなんだから直ちに適正なレベルに調整しろというこ とであり、開発うんぬんもレギュレーションの正否も関係のない話だ。

コンストラクターの立場から言えば、そりゃ、公正で安定的なレギュレーションの基で思う存分技術の戦いを楽しみたいが、例えば、今年から導入されたフラッ トボトム化という規定を正しく決めようとすると、代表的な3車種の風洞実験を行なうだけで数千万円の費用を要する作業となる。だから、アップスイープの高 さの決定もなにもかも「話し合い」で決められる。どの車種にどれほどメリットがあってどの車種がどれほど損をするかは想像の世界、出来てからのお楽しみと いうところだ。
こんな科学的なゲームの割には、根拠の希薄な「話し合い」で決められていくレギュレーションがもし間違っていたらどうすればいいかというと、ただちに修正すればいいだけの話のはずだ。
一度決められたことは一年間は守らなくちゃと言うなら、それはちょっと待ってほしいと言いたい。それならば、こんなレギュレーションも、こんなレギュレーションの設定のしかたも受け入れられない。
少なくとも、いままで童夢としてはレギュレーションの内容にはあまり関心を持たなかった。所詮、重りを積むレースなんだから、その根拠に言及しても詮無き ことだと考えていたし、まともな技術競争を支えるようなレギュレーションの制定がいかに難しいものかも理解していたから、性能調整システムとしてちゃんと 機能していればよしとしていた。

例えば、JGTCのレギュレーションの中に、前面投影面積が小さい車両は重りを積むという項目がある。貴方はこの規定について疑問をもったことがあるか?
無いだろう? では、デザイナーがレーシングカーを設計する場合に、どうして規定の寸法いっぱいに造るのか? この論理が正しければ、童夢S101も小さ く造ればよかったという事になるが当然のように目いっぱいの大きさに造られている。
ご存知のように、現在のレーシングカーにとってダウンフォースは命だが、これは車体の大きさと形状で決まる。つまり、車体が大きくなると空気抵抗は増えるが、得られるダウンフォースはそれ以上に大きくなって、相対的には得な方向となるから車体は小さく造れないのだ。
また、今年から変更になった項目として、フロントホイールアーチの造形が自由となり、トランスアクスル化が自由になり、フラットボトムになったが、FR車 はこれによって規定最大サイズのフロントタイヤの採用が容易になった。このハイパーフォマンス・タイヤを最大限活用するためには適正なフロント荷重とそれ に見合ったフロントダウンフォースが必要となるが、トランスアクスル化によって前後の荷重配分が自由に設定できるようになり、理想的なフロント荷重を得ら れるようになっているはずだ。
一方、NSXはミッドシップとしてのハンディを背負わされているが、このタイヤを使うには少なくとも48%以上のフロント荷重が必要なところ、ギアボック ス位置を工夫するなどして極力前よりにする努力はしているが、それでも現状46%くらいで、規定最大サイズより周長で5%程度小さいタイヤが実用上の限界 となっている。
これらは矛盾したレギュレーション設定の例として説明しているが、我々にとっては、それがどんな理不尽な理由であろうとも結構で、単なる性能調整のための 口実としか理解していないからハンディに変わりは無いし、また、そんなことはどうでも良いことだ。 いくらお金をかけてよいならNSXを早くする手立てはいくらでもある。第5戦の富士で少しNSXが回復の兆しを見せたが、これはHONDAがちょっと本気 になったらこうなっちゃいましたという結果だ。しかし、技術の戦いとしては大変に面白い出来事である反面、心配の種から芽が出てきましたという感じで、こ れをメーカー間の熾烈な開発競争だなんてはやし立てるのは愚の骨頂である。この構造のレースで、こんな無駄なお金をメーカーに使わせる愚かさを早くなんと か善処してほしいものだ。
レーシングカーを速くするにはとんでもない開発費を要するが、速い方を遅くするならタダで出来るという現実があるのだから、大事に至る前に早く何とかしたほうがいいんじゃありませんか、と忠告しておこう。
開発競争が激化したほうが当然メリットの大きいコンストラクターが、あえて提言しているのだから、すこし真摯に耳を傾けていただければ幸いである。

林 みのる